はじめに
本書は、2020年代後半から2040年にかけて発生した「同期社会崩壊期」を扱う。
従来の近現代史は、国家、戦争、経済、思想を中心として整理されてきた。しかし2027年の『皐月事変』以後、人類社会は大きく変化した。
通信、物流、電力、認証、監査。
これらは単なる社会基盤ではなく、社会維持そのものへ直結する要素となった。
その結果、人類は「完全同期社会」から、「接続維持社会」へ移行した。
本書では、その過程を概説する。
しかし、「一致」が失われた。
社会は停止しなかった。停止できなかったのである。
序章 高度同期社会とは何だったか
■0-1 二一世紀前半の世界
二一世紀前半、人類社会は高度な常時接続社会を形成した。
スマートフォン、低軌道衛星通信、クラウド認証、人工知能、即時決済、動画配信。
世界各地は、ほぼ同時に接続されることを前提として運用されていた。
当時の人々にとって、「即座に届く」ことは当然だった。
しかし、その社会は極めて脆弱な前提の上に成立していた。それが「同期」である。
これらが同時に一致し続けることで、社会は維持されていた。
■0-2 同期社会の特徴
高度同期社会には、常時接続、即時決済、在庫圧縮、中央認証、AI最適化、広域物流などの特徴が存在した。
平時においては極めて効率的であったが、重大な弱点も抱えていた。
第1章 HEMP事象と同期崩壊
■1-1 2027年『皐月事変』
2027年5月、大規模HEMP事象が各地で発生した。この事象について、現在も統一見解は存在していない。
しかし重要なのは、原因ではなく結果として人類史上最大規模の『社会同期崩壊』が発生した事実である。
■1-2 同期崩壊
『皐月事変』以後、時刻同期異常、通信順序不一致、経路分岐、認証遅延、在庫情報不一致、決済障害、測位異常が世界規模で発生した。
重要なのは、通信そのものは停止しなかったことである。
通信は存在した。しかし、「一致」が失われた。
第2章 劣化運用社会
■2-1 常時接続の終焉
2030年代初頭、人類は常時接続社会を事実上放棄する。
通信は残った。
しかし以前のような高品質常時接続は維持できなくなった。
その結果、社会は「劣化運用」へ移行する。
■2-2 部分同期社会
高度同期社会期には、世界全体がほぼ同時刻で運用されていた。
しかしGOT社会では、それが不可能となる。
地域ごとの通信品質、電力状態、物流能力が大きく異なるためである。
第3章 GOTの成立/第4章 ノード社会
■3-1 到達性優先
GOT(地上・軌道混成到達性網)は、従来型通信網と異なる思想を持つ。
即時性、完全同期、順序保証、一貫性。
これらの多くが維持不能となったため、別の優先順位が採用された。
■4-1 接続維持思想
2030年代、人類社会では「接続維持思想」が広がる。
これは、完全統一ではなく、既存規格や既存記録を保持したまま接続し続ける思想である。
用語抜粋
劣化運用
社会機能が停止していないにもかかわらず、元の品質を維持できない状態。
局所観測差異
異なる地域が、同一対象に対して異なる状態を保持する現象。
履歴参照対象
消滅後も、履歴接続維持のため保持されるノード。
試読版収録内容
- 序章 抜粋
- HEMP事象概要
- 劣化運用社会概要
- GOT思想概要
- ノード識別規格抜粋
- 用語抜粋
完全版収録予定
- 詳細年表
- 地域圏分析
- ND-ORB-OBS-LEO-03事故記録
- GOT成立史
- OBS/LOG思想史
- 監査資料集
- 学習課題
- 地域別通信推移
- 完全用語集
2040年度版
※本ページは『HG新書 近現代史【2040年版】』より一部内容を抜粋した試読版である。